11月になると、本社から茶封筒が配られます。
「年末調整の書類、期日までに出してくださいねー」
保険会社から送られてきたハガキを見ながら、意味もわからず金額を書き写して提出する。
これで毎年終わっている人、多いんじゃないでしょうか。
私も入社して10年程はそうでした。
先に結論を言います。
年末調整は、払いすぎた税金を取り戻すためのあなたの権利です。
そして、生命保険や個人年金で得られる「節税」は、多くの人が思っているよりずっと小さいです。
今日は年末調整の仕組みと、なぜ保険料を払うと税金が安くなるのか、そして「節税目的で保険に入る」という選択がどれくらい割に合わないかを数字で説明します。
そもそも年末調整とは何か
毎月の給料から天引きされている所得税は、実は「仮の金額」です。
会社は、あなたの毎月の給与額をもとに「源泉徴収税額表」という国が決めた早見表を使って、概算の所得税を天引きしています。
これを源泉徴収といいます。
なぜ概算なのかというと、次のような事情はその年が終わってみないと確定しないからです。
- 残業代や現場手当で、月ごとの収入にブレがある
- 年の途中で結婚した、子供が生まれた(扶養家族が増えた)
- 生命保険料・地震保険料をいくら払ったか
- iDeCoの掛金をいくら払ったか
こうした「1年間の実績」を12月にまとめて会社に申告し、本来納めるべき正しい税額を再計算する。天引きしすぎていれば還付され、逆に足りていなければ追加で徴収される。
これが年末調整です。
年末調整で会社に提出する主な書類
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養家族の情報 |
| 給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料・地震保険料・iDeCoの掛金など |
| 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 基礎控除・配偶者控除など |
保険会社から届く「控除証明書」のハガキは、この2番目の書類に転記するために使います。
だから毎年ハガキが届くわけです。
サラリーマンでもiDeCo(個人型確定拠出年金)をやっているなら、この保険料控除申告書に記入が必要です。
「小規模企業共済等掛金控除」という欄がそれにあたります。
「小規模企業共済」という名前のせいで個人事業主向けの制度だと誤解されがちですが、iDeCoの掛金は会社員でも全額この控除の対象になります。
国民年金基金連合会から届く「掛金払込証明書」を見ながら記入してください。
なお、健康保険料・厚生年金保険料といった給料天引きの社会保険料は、会社側がすでに把握・計算済みなので、基本的に自分で記入する必要はありません(家族の国民年金保険料を自分が代わりに払った、といった例外を除く)。
年末調整だけでは終わらないケースもある
医療費控除、ふるさと納税(ワンストップ特例を使わなかった場合)、住宅ローン控除の初年度などは、年末調整の対象外です。
これらは自分で確定申告をする必要があります。
年末調整は「会社がやってくれる分だけ」の手続きだと理解しておいてください。
なぜ保険に入ると税金が安くなるのか
生命保険料控除という制度があります。
1年間に払った保険料の一部を所得(税金の対象になる金額)から差し引ける仕組みです。
控除は3つの区分に分かれています。
生命保険料控除の3区分
| 区分 | 対象 |
|---|---|
| 一般生命保険料控除 | 死亡保険など |
| 介護医療保険料控除 | 医療保険・がん保険・介護保険など |
| 個人年金保険料控除 | 個人年金保険(税制適格特約付き)など |
平成24年(2012年)1月1日以降に契約した保険(新制度)の場合、この3区分それぞれに上限4万円、3つ合計で最大12万円まで、所得から差し引くことができます(国税庁)。
控除額は、年間に払った保険料の金額によって決まります。
国税庁が定める計算式は次の通りです(1区分あたり)。
| 年間払込保険料 | 控除額 |
|---|---|
| 20,000円以下 | 支払った全額 |
| 20,001円〜40,000円 | 支払保険料×1/2+10,000円 |
| 40,001円〜80,000円 | 支払保険料×1/4+20,000円 |
| 80,001円以上 | 一律40,000円 |
見ての通り、保険料をいくら払っても控除額の上限は4万円で頭打ちになります。
年間8万円払おうが20万円払おうが、控除される金額は変わりません。
生命保険料控除・地震保険料控除、記載できる金額の上限をシミュレーション
「保険料控除申告書」に、どれだけ大きい金額を書いても意味がないラインがあります。ここを具体的な金額で示します。
生命保険料控除(新制度、3区分)
| 区分 | 控除が頭打ちになる年間払込額 | その時の控除額(所得税) | その時の控除額(住民税) |
|---|---|---|---|
| 一般生命保険料 | 80,001円以上 | 40,000円 | 28,000円 |
| 介護医療保険料 | 80,001円以上 | 40,000円 | 28,000円 |
| 個人年金保険料 | 80,001円以上 | 40,000円 | 28,000円 |
| 3区分合計 | 240,003円以上 | 120,000円 | 70,000円 |
つまり、3つの保険に年間合計24万円(月2万円)以上払い込めば、それ以上どれだけ保険料を積み増しても、控除額は1円も増えません。
地震保険料控除
| 区分 | 控除が頭打ちになる年間払込額 | 控除額(所得税) | 控除額(住民税) |
|---|---|---|---|
| 地震保険料 | 50,001円以上 | 50,000円 | 25,000円 |
年間5万円(月4,167円)払い込めば頭打ちです(住民税は支払額の1/2、上限25,000円)。
全部合わせると、最大控除額はいくらか
生命保険料控除+地震保険料控除をすべて頭打ちまで使い切った場合の最大控除額は、
- 所得税:120,000円+50,000円=170,000円
- 住民税:70,000円+25,000円=95,000円
これを達成するために必要な年間払込保険料の合計は、
240,003円(生命保険)+50,001円(地震保険)=約290,000円(月24,167円)
税率10%と仮定して節税額を計算すると、
- 所得税の節税額:170,000円×10%=17,000円
- 住民税の節税額:95,000円×10%=9,500円
- 合計:26,500円/年
年間約29万円もの保険料を払い込んで、税金として戻ってくるのは26,500円だけです。
払った保険料に対する回収率は、わずか約9%です。

2026年だけの特例(子育て世帯は上限アップ)
2026年分の所得税から23歳未満の扶養親族がいる世帯に限り、一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円に引き上げられる特例が始まっています。
2026年・2027年分のみの時限措置です(該当しない世帯は従来通り4万円のまま)。
該当する人は控除額が2万円分増えますが、それでも税率10%なら増える節税額は年2,000円程度です。「特例があるから保険を増やそう」と考えるほどのインパクトはありません。
節税目的で保険に入るのは、やめてください
ここまでの数字を見てもらえば分かる通り、「節税になるから」という理由で保険や個人年金に加入するのは、正直おすすめしません。
理由はシンプルです。
- 控除額に上限があるので、保険料を増やしても節税効果はある一点で頭打ちになる
- 払う保険料に対して、戻ってくる税金はごくわずか(前述のシミュレーションで約9%)
- 保険はそもそも「保障」を買うための商品であって、「増やす」「節税する」ための商品ではない
必要な保障(万一のときに家族が困らない金額)は、掛け捨ての保険で必要最低限確保する。
それ以上のお金を「節税になるから」という理由だけで保険に回すくらいなら、そのお金は新NISAでインデックス投資に回した方がよほど資産は育ちます。
保険は保障、投資は資産形成。
この2つを「節税」という言葉で混ぜてしまうのが、一番もったいない選択です。
まとめ
✅ 年末調整は、天引きされすぎた税金を取り戻すための手続き。
出さないと損をする。
✅ 保険料控除申告書には、生命保険料・地震保険料だけでなくiDeCoの掛金(小規模企業共済等掛金控除)も記入する。
会社員でも対象。
✅ 医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例外)は年末調整の対象外。
自分で確定申告が必要。
✅ 生命保険料控除は3区分に分かれ、1区分あたり所得税は最大4万円まで(新制度)。
保険料をいくら積み増しても、控除額はそれ以上増えない。
✅ 生命保険・地震保険を全部頭打ちまで使っても、年間約29万円払って戻ってくる税金は約26,500円(税率10%の場合)。
回収率は約9%。
✅ 2026年・2027年は子育て世帯限定で上限が6万円に上がる特例があるが、インパクトは小さい。
✅ 節税目的で保険に入るのはおすすめしない。
保障は最低限、余ったお金は新NISAへ。
年末調整の書類は、面倒でもきちんと出してください。
ただし、「保険で節税」という言葉には惑わされないでください。
参考文献・出典
国税庁 No.1140「生命保険料控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm
国税庁「生命保険料控除の限度額計算」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/76.htm
国税庁 No.1145「地震保険料控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1145.htm
国税庁 No.1135「小規模企業共済等掛金控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
東京都主税局「個人住民税」(生命保険料控除・地震保険料控除の住民税上限額)
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/life/kojin_ju
財務省「令和8年度税制改正の大綱」(子育て世帯の生命保険料控除6万円特例の延長)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_01.htm
※上記は執筆時点(2026年8月)の情報です。
税率・控除額は個人の所得や自治体によって異なります。
※記事内の節税額の試算は、税率10%を仮定した場合の一例です。
実際の節税額は所得やお住まいの自治体によって異なります。
※保険の加入・見直しは、ご自身の保障ニーズに応じて自己判断・自己責任でお願いします。



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